東京地方裁判所 昭和50年(ワ)4027号 判決 1978年1月27日
原告
株式会社ハイマート
右代表者
田中弘
右訴訟代理人
菊池章
右訴訟復代理人
中村雅男
被告
株式会社シヨウエイ
右代表者
多田州郷
右訴訟代理人
岩本公雄
塚本重雄
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一本件ボートの所有権の承継取得の有無
(一) (被告、塩野間の売買)
被告が昭和四八年五月八日、その所有に係る本件ボートを代金三八〇万円で塩野に売渡したことは、当事者間に争いがない。
(二) (右売買契約解除の抗弁について)
<証拠>によると被告は塩野に対し昭和四九年七月四日到達の書面をもつて、被告塩野間の売買残代金四〇万六三〇〇円と保管費用、エンジン整備代金、立替金、違約金等合計二一万五七五九円とを同月九日午後六時までに支払うことを請求し、もし右履行がなければ右売買契約を解除する旨の意思表示をした事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) (解除に対抗できる第三者たることの再抗弁について)
原告は、富士甲陽開発からその保管中の本件ボートを買受け、現実または指図による占有移転の方法で引渡を受けたと主張するので、その有無について判断する。
(1) <証拠>によれば、原告は、昭和四八年一〇月二五日、富士甲陽開発から本件ボートを代金三六五万円で買受けたことを認めることができる。
(2) しかし、原告が、その主張するように、富士甲陽開発から本件ボートの引渡を受けたものとは本件全証拠によつても、これを認めることができない。すなわち、<証拠>によれば、塩野は、右売買に際して、本件ボートの保管委託先である熱海マリーナにおいて、原告会社代表取締役田中弘らに対し、本件ボートを検分させたうえ、これを海上に搬出し、右田中らを同乗させて約三〇分間試運転をしたこと、その後昭和四八年一一月ごろ、塩野が運転し、右田中及び原告会社従業員が同乗して本件ボートが運航されたことをそれぞれ認めることができるが、<証拠>中の、右各同乗の際、塩野から直接引渡を受けたとの部分及び塩野が熱海マリーナの係員に対し田中らを本件ボートの買主であると告げたとの部分は、具体性を欠くか不明確であつて、にわかに措信できない。他方、<証拠>によれば、熱海マリーナは当時株式会社恒有商事の経営にかかる会員制のボート保管所であり、入会に当つては保証金を納入し、月々保管料を支払い、同所に保管中のボートを会員が使用するには同所の受付で所定の手続を経て、陸揚中のボートを係員によつて海上まで搬出せしめることが必要で、同所に無断でボートを持ち出すことは不可能であること、本件ボートは、富士甲陽開発、原告間の前記売買契約の前後を通じ塩野富彦の会員名義で同所に保管されてあつたことを認めることができる。そうしてみれば、前記のように、右売買に際して原告会社代表者が本件ボートを検分し、塩野の運転によつてこれに乗船したとの事実をもつて、直ちに、本件ボートの現実又は指図による占有移転があつたものということはできない。他に右各占有移転があつたことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 右のとおり、原告は富士甲陽開発から本件ボートを買受けたものの、その引渡を受けたとは認められないから原告の再抗弁は理由がない。
(四) してみれば、被告から塩野を経て本件ボートの所有権を承継取得したとの原告の請求原因は塩野と富士甲陽開発間の所有権移転の有無について判断するまでもなく理由なきに帰する。
二即時取得の有無
前述のとおり、原告が富士甲陽開発から本件ボートの占有移転を受けたことを認めるに足る証拠はないから、原告が本件ボートを即時取得した旨の請求原因は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三予備的請求についての判断
(一) 被告と塩野間において昭和四八年五月八日になされた本件ボートの売買契約においては、代金三八〇万円の支払方法につき頭金八〇万円を契約時に支払い、残金は昭和四八年五月から昭和四九年七月まで一五回に分割して支払うこと及び代金完済まで本件ボートの所有権を被告に留保する旨の約定がなされたことは当事者間に争いがない。
(二) このような代金完済まで売主に目的物の所有権を留保する旨の約定が、一般に売主の代金債権の担保という目的に出るものであることはこれを肯定することができる。しかし、そのことから直ちに、売主に留保された権利が右の担保目的の範囲に限定されるとか、目的物の所有権から売主に留保された部分を除いた物権的地位が買主に帰属するとか、一たん所有権は買主に移転し、買主が再び売主のために譲渡担保権を設定したのと同じ法律関係となるものとする見解を採用することはできない。売主はもともと目的物につき完全な所有権を有していたのであり、また、売買契約においては目的物の所有権移転時期を当事者の合意により自由に定めることができるのであるから、代金完済まで所有権を売主に留保するという売買当事者の合意には、その合意どおりの効果を認め、代金完済をまつて初めて所有権が買主に移転すると解するのが相当である。原告の予備的請求は、当裁判所の採用することのできない前記の見解に立脚するものであつて、既にこの点において理由がない。
(三) のみならず、本件においては、一に述べたように、被告と塩野間の売買契約解除の意思表示がなされ、原告は富士甲陽開発から本件ボートを買受けたものの、その引渡を受けたものとは認められないから、右解除に対抗できる第三者の地位を有するものとはいえないのである。従つて、原告の主張するような担保目的に従つた法律構成をとり得るとの見解に立つても、所論の清算金を請求することができるのは塩野であつて、原告ではなく、結局、予備的請求は理由なきに帰する。
四以上のとおり、原告の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(大石忠生 松尾政行 瀧澤泉)